「はぁ……」
 魔王軍の食堂であまり食が進まずにプリノは溜め息をついた.
「あれ,どうしたんですか将軍?溜め息なんてついて……」
 食べ終わった食器をかたづけようとしている一人の部下(部下1としておく)がそれに気がついて声をかけてきた.
「あっ,いえ…何でもありません」
「そうですか?心配だなぁ」
「心配をおかけしてすみません.本当に何でもありませんから」
 プリノは魔王軍の将軍階級で頭脳明晰,容姿端麗ではあるが,周知のドジであるため親しみがあり部下たちにかなり慕われていた.
「それならいいんですが……それでは失礼します,将軍」
 部下1が立ち去ってからまたプリノは小さく溜め息をついて食事を食べ始めた.
「どうしたらいいんでしょう……」と小さく呟いて……

プリノの想い

「紅さん,どうしたんですか?いつも以上に仏頂面で……」
「……誰が仏頂面かっ!考え事をしてるんだ……」
 食堂で食事をしながらも紅はいつも以上に仏頂面である.ちなみにおかずは野菜ばっかりである.
「考え事って……将軍のことですか?」
 向こうの方でまだ溜め息をつきながら食事しているプリノを見ながらキャロルは紅に質問してきた.
「ああ…あいつ,この前の医務室での時は吹っ切れた顔をしていたのにと思ってな……」
 医務室でのときと言うのはプリノが魔狼の呪いを受けた事件が解決した後,クリスマスの日に医務室でヴァイオリンを披露した時の事である.そのときのプリ ノはとてもいい笑顔をしていた.
「やっぱり紅さんは将軍のことが心配というか,大好きなんですねぇ」
 いつものように紅をからかうキャロルだったが,無言で刀を抜こうとしている紅を見て「冗談ですってば」といつものあまり反省の無い台詞で謝った.
「それにしても本当に将軍,どうしたんでしょうね」
「……さあな.まあ,本人の問題だろうしあいつが相談でもした時に俺たちは考えればいいさ」
 そんなことを言うと紅は食器を片付けて食堂を出て行った.
「……紅さんも素直じゃないんだからなぁ」
 くすっと笑いながら食器を片付けるとキャロルはプリノの元に向かった.
「将軍,どうしたんですか?」
「あっ,キャロル……な,何でもありません」
「何でもないって事はないんじゃないですか?そんなに溜め息をついて……心配なんですよ」
 また人に迷惑をかけているのですね……成長しませんね,私も……
「紅さんも心配してましたよ」
 その一言を聞いた途端にプリノの顔は真っ赤に染まった.
「やっぱり紅さんに関してのことなんですね.最近僕たちというか紅さんを避けていたのでもしかしたらと思っていたんですが」
「えっ,べっ別に避けてなんか……それに紅の事なんか……か考えてませんよ……」
「クスッ,将軍も本当に分かりやすい方ですねえ.それじゃ肯定しているのと同じですよ」
 プリノは真っ赤になり俯いて黙ってしまった.キャロルはやりすぎたかなと思い謝ろうとした時,プリノが呟き始めた.
「あなたたちにはこの間,本当に迷惑をかけたと思っているんです.それなのにキャロルや紅はこんな私を励ましてくれました.それが本当に嬉しかったんで す.だから少し照れくさくて……」
「僕たちは本心を言っただけですよ.でも,将軍!誤魔化そうとしてもそうはいきませんよ.それだと避けていたことに関しては納得できても溜め息に関しては 納得できませんから」
「別に誤魔化してませんよ!!」
 何か必死に誤魔化そうとしているプリノにキャロルはボソッと呟いた.
任命式……
 再び顔を真っ赤にしてプリノは逃げるように食堂を立ち去った.
「やっぱり思ったとおりでしたね.でも,これは本人に解決してもらうしか本当にないようですね」
 自分の力不足を少し嘆きながら真剣な顔でプリノが去っていたほうを見つめていた.

(キャロルにはばれているようですね)
 自分の部屋に戻りながらプリノは考え事をしていた.
(任命式で陛下に頂いたと思った言葉は実は紅が影武者をしていた時にもらっていたものだったなんて…….あの言葉がきっかけで私は陛下を好きになったの に……これから紅にどういう顔をして会えば良いというのでしょう……)
ゴン!!
「……っ…」
 何もないところでこけるのも日常茶飯事のプリノが考え事なんかしていたので壁におもいきりぶつかった.
「……相変わらずだな,お前は……」
「……紅……いたんですか?」
 頭をおさえて痛がっているプリノを紅は呆れた顔で見ていた.
「さっきからボ〜っとしているようだが,あんまりボ〜っとしていると怪我するぞ」
「…………」
 紅に先程の溜め息のことも注意されているのに気付き黙り込んでしまった.
(そうです,キャロルがあの場にいたということは紅もあの場にいたという事ですね.)
「まあ,お前が何に対して悩んでいるかはわからん.だが,悩んでいる姿を見るとお前を慕っている連中が心配するだろう.焦らなくていいが……早めに切り替えてくれるとこちらも助かる」
 少し照れた顔をしてそう言うと,紅はさっさとその場を立ち去った.
(紅は相変わらずですね……任命式の時もこの前の時も……)
 いつも落ち込んでいる時は紅に励ましてもらっている事に気付き,今まで紅が陛下の影武者をしていた事を気にしているのが小さなことに感じた.
(そうですね.まだ気持ちの整理は出来ませんが,……その色々と……陛下の事とか紅の事も…….でも皆さんに心配もかけないようにしなくてはいけませんね.皆さんがいるから私はゆっくり頑張れるんですから.そう,私の想いは今はそれだけです.)
 先程までの鬱な表情が一転して優しい笑顔になり自分の部屋へと帰っていった.自分自身で少し無理やりに納得させたという事は気付きながらも気付かない振りをして……

 次の日,魔王城では昨日までの暗い表情が嘘のような将軍とそのことを心から喜んでいる部下が仕事に励んでいた.
「よかったですね,紅さん.将軍の悩みが無くなって……」
「そうだな」
「昨日何かあったんですかね.例えば廊下で誰かに励まされたとか……ね,く・れ・な・いさん!」
「っ……,お前見て……」
「さて,僕たちもそろそろ仕事を始めないと将軍に怒られてしまいますよ」
 すごく爽やかな笑顔の中に人をからかった笑いを九割ほど含めながら急いでキャロルは立ち去った.
「キャロル,貴様は趣味が悪すぎるぞ!!」
 顔を真っ赤にしながら紅は大声で叫んだ.また,周りには「この問題児二人組は!」と思わせてしまったようだ.



後書き
なんと言うか,終わり方が特にひどいですね.
えー,場面は「私の狼さん。THE OTHER SIDE OF LYCANTHROPE」の終了数日後という設定です.
何を書きたかったのかよく分かりませんが,紅はプリノを不器用ながらも大事に想っているということです.
プリノは昴(陛下)に対して失恋しましたが,そう簡単には諦め切れずに紅に関しては意識をするも恋まではいってないです.
と言うか,原作知らないと分からない文を書いてすみませんでした.


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